森友交渉記録
財務省が2018年6月4日に「森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書」を公表しました。書き換え前の決裁文書についてはそれよりすこし前の5月23日に「決裁文書に関する調査について」の中で公表されています。
この行為自体についてはコメントしませんが、文書情報管理の観点からのみコメントしてみます。
応接録の廃棄に関しては、保存期間が過ぎていることから、紙媒体及び電子媒体ともに廃棄したとしていましたが、「サーバ上の共有フォルダーに保存されていた電子ファイルについては、廃棄されずに残されたものも存在した。」(報告書
p14)と説明しており、共有フォルダーにだけ残されたような説明となっています。
しかし他の部分で、近畿財務局で作成した応接録は随時本省理財局とも共有し、本省側の職員は紙媒体の形で保存したり、サーバの共有フォルダや各職員が使用するコンピュータ上に電子ファイルの形で保存していた(報告書
p14)としているほか近畿財務局の職員も、「後日必要になるかもしれないと考えたものを手元に保存しておくことが多い。(中略)一連の応接録を保存していたほか、その電子ファイルをサーバ上に保存していた」(報告書
p14)と説明しています。
これからわかるように、きちんと文書管理されているもの以外に、担当者はそれを印刷したり共有ファイルサーバだけでなく、個人が使用しているパソコンも含め、かなりの数のコピーが存在していたと伺えます。一般の会社でも、よほど文書管理が徹底されたところ以外では、これと同様な状態なのではないでしょうか。このように状態では、アメリカのe-ディスカバリー制度で文書の開示請求をされた場合、後から必要な文書が見つかり、高額な賠償金を請求される危険性が高いといえます。
売買契約締結後に作成された応接録については、「すでに作成済みであった応接録は中身が詳細すぎることから、要旨のみに圧縮した応接録を作成し直すこととし、(中略)提出した。」(報告書
p21)としていますが、これだけでは決裁した書類そのものを変えたのか、決裁書類に添付された添付文書だけを作成し、この部分のみを再作成して、正式に添付されたものとして報告・公開していたのであれば、これは改ざんではなく、偽造(公文書偽造)になります。決裁書のに押印した本文とセットしなおし、管理されている文書と差し替えたのであれば改ざんとなりますが、報告書では、この部分は明確には書かれていません。
マスコミの報道でも偽造なのか改ざんあるいはねつ造(無かったものをでっちあげる)について、これらを区別しているものはほとんどないといっていいのではないでしょうか。
『「一元的な文書管理システム」上で電子決済が行われた「文書5(特例承認)」については、改ざんが行われた後も当該システム上に元々の文書が保存されており』(報告書 p23)としていますが、この元々の文書が、バージョン管理機能による修正前文書の保存であるのか、元々の文書をコピーして新たな文書として登録したものかも明確にはされていません。バージョン管理機能により残ってしまっただけで、正式な決裁文書を変えているなら改ざんです。
「一元的な文書管理システム」上で電子決済が完了した文書については『文書管理責任者又はその配下で文書管理担当者権限を設定された職員のアカウントであれば、「一元的な文書管理システム」上で電子決済が行われた文書を更新できることを知り、(中略)職員に対して当該システムにログインするよう依頼したうえで、当該職員のコンピュータを借りて作業を行った。なお、当該職員は、改ざん作業自体は全く関知していなかった。』(報告書
p25)としていますが、この説明はほとんど信じることはできません。
文書管理担当者権限があれば更新できることを知らなかったような室長が、担当者の助言も得ずに操作・更新ができるはずがありません。また、このログインした状態のコンピュータを貸すことは、文書管理規程やセキュリティ規程に違反しています。
ついでのことですが、この財務省の報告書は全文がPDFファイルとして公開されていますが、印刷は可能ですが、内容のコピーやページの抽出などができないように設定されています。文書をコピーするには、いったん印刷したうえでスキャニング、OCRの手順を踏めばできそうですが、公開されているPDFは、荒い精度でスキャニングされたものであり、OCRで処理を行っても、ほとんどまともに認識されるとは思えません。
政府は「世界最先端デジタル国家創造宣言」を出していますが、このようなPDFをあえて公表するのは、この報告書をなるべく引用されたくない・活用されたくないとの意識が見えてきます。