文書情報管理に関連する規格

記録管理ではよくISO 15489が取り上げられ、日本語化され(JIS X 0902-1)ているが、このほかにもISOないしJISとして制定されているものがあります。

ISO 15489-1:2001

これは2001年にISOとして制定された規格で、Information and documentation - Records management - Part 1:General のタイトルで、JISとしても制定されています。JIS X 0902-1:2005(情報及びドキュメンテーション - 記録管理 - 第1部 総説)がそれで、日本語化に際し、修正はされず、元のISO規格と一致する(IDT:identical 最低限の編集上の差異以外は全て一致)とされていますが、"document" や "record" をどのような言葉に置き換えるかは議論されており、最終的には"document"を 「文書」、 "record"を「記録」と決定しています。当初は"document"を 「資料」、"record"を「文書」とする意見もあったとのことです。(JIS X 0902-1 解説より)
この規格と同じシリーズのものとしてISO/TR 15489-2がありますが、適用範囲で『記録管理の専門家及び組織での記録管理の責任者のためのISO 15489-1の実施手引書である。』とし、一般社員などを対象としていない旨を明確に宣言しています。またこれは規格ではなく技術文書(テクニカルレポート)の扱いであり、タイトルは"Part 2:Guideline"(指針)となっています。今のところ日本語化の予定はなさそうです。

記録の特性として、『記録は、何が伝えられ、決定され、又はどのような行動がとられたかを正確に反映するとよい。記録は、それが関係する業務のニーズを支援することができ、説明責任の目的で使用することが望ましい。』(7.2.1)とされています。

このためには次の特性を持ったものが望ましいとしています。(7.2.3 ~ 7.2.5)

・真正性
記録が主張しているとおりのものであること、それを作成又は送付したと主張する者が,作成又は送付していること、主張された時間に作成し,送付していること、が立証できるものである。
・信頼性
その内容が、処理、活動又は事実が完全であると信じることができ、そして継続して起こるその後の処理及び活動の過程を証明し、かつ、よりどころとすることができるものをいう
・完全性
その内容が完結していて変更されていないことを意味する。
・利用性
所在場所がわかり、検索でき、表示でき、解釈できるものをいう。


そして記録管理システムに取り込む文書として、「規制環境、業務及び説明責任の要求事項、並びに記録を取り込まない場合のリスク分析に基づく。その要求事項は組織の型、運営されている法的及び社会的な状況によって異なるかもしれない。」(9.1)としています。
また記録管理システムに求める特性として、信頼性、完全性、コンプライアンス、包括性、体系的の5つを挙げています。

ISO 14589-1:2001は2016年に、ISO15489-1:2016 -Information and documentation-Records management-Part 1: Concepts and principles.「情報及びドキュメンテーション-記録マネジメント-第1部:概念及び原理」と改訂されましたが、2018年の時点では、JIS X 0902-1:2005を改訂する動きは無いようです。

ISO 15489-1:2016

この規格は、「電子化の更なる進展や組織活動の透明性・公開性向上に対する社会からの要請の高まりなど、記録管理をめぐる環境の変化などを背景にして、第2版は発行されたと考えられる。」(「記録管理の国際標準ISO15489-1の改定について」中島康比古、アーカイブズ第61号、平成28年)とされています。この規格を策定したISOの専門委員会(TC46)の中に設置されている分科委員会SC11(アーカイブズ/記録管理)ですが、後述する記録マネジメントシステム標準ISO30300シリーズと整合がとれるように配慮されており、ISO30300シリーズが戦略レベルのものとし、ISO15489-1:2016は実務レベルのものとされています。(以下2001年版を第1版、2016年版を第2版とする)

記録管理の基盤として定義する原理について、第1版でも触れられてはいましたが、第2版では4章として独立しており、より明確となっています。

  • 記録の作成、捕捉及び管理は、あらゆるコンテクストにおいて、業務遂行の一体不可分な要素である。
  • 記録は、真正性、信頼性等の特性を備えているとき、業務の信頼できる証拠となる。
  • 記録は、内容及びメタデータから成る。メタデータは、時の経過に伴う管理のみならず、記録のコンテクスト、内容及び構造を記述する。
  • 記録の作成、捕捉及び管理に関する意思決定は、業務上、法的及び社会的コンテクストにおける業務活動の分析及びリスク評価に基づいて行われる。
  • 記録管理のためのシステムにより、記録制御及び記録の作成・捕捉・管理に係るプロセスの遂行が可能になる。また、そのシステムは、特定された記録要求事項を満たすため、方針、責任、監視・評価及び研修の決定に拠る。

中島康比古、アーカイブズ第61号より

またアプレイザル(評価)は、第1版ではほとんど触れられていませんでしたが、第2版では独立した第7章として取り上げられており、「どの記録が作成・捕捉される必要があるか、及びどの程度の期間保存する必要があるのかを決定するための業務活動の評価プロセス」であり、「評価」のプロセスとして、(1)実施範囲の決定、(2)業務の理解、(3)記録要求事項の確定、(4)記録要求事項の実現が示されています。(中島康比古、アーカイブズ第61号より)

アプレイザルを行うのは次のような時であるとし、それに応じてどのような記録を作成し、どれだけの期間を保存しなければならないかを判断します。

  • 新しい組織の立ち上げ
  • 業務や活動の喪失、獲得
  • 業務の手法やニーズの変化
  • 規制環境の変化
  • 新システムの導入やシステムのアップグレード
  • リスクや優先順位の認識の変化

そのほか記録の定義の中で「証拠及び情報」とされていたものが、第2版では「証拠として、及び資産」と、変更していたり、記録に付与するメタデータについても多く説明されているなどの修正がみられます。

ISO 30300シリーズ

ISO30300シリーズは、上で説明しているISO15489を策定したのと同じ分科委員会(TC46/SC11)が策定したもので、ISO30300から30304まで予定されており、そのうち30300と30301が、2018年の時点で規格化されています。

ISO 30300:2011
情報及びドキュメンテーション-記録のためのマネジメントシステム-基本及び用語
Information and documentation -- Management systems for records -- Fundamentals and vocabulary
ISO 30301:2011
情報及びドキュメンテーション-記録のためのマネジメントシステム-要求事項
Information and documentation -- Management systems for records -- Requirements
ISO 30302:2015
情報及びドキュメンテーション-記録のためのマネジメントシステム-実施の指針
Information and documentation -- Management systems for records -- Guidelines for implementation
ISO 30303
記録マネジメントシステム-審査及び認証を行う機関
Management systems for records - Requirements for bodies providing audit and certification
ISO 30304
記録マネジメントシステム-評価ガイド
Management systems for records - Assessment guide

30303は、まだ発行されていませんが、ISO9001やISO14000と同じように、認証規格とすることが計画されています。

ISO15489は、記録管理のプロセスを規定しているのに対し、ISO30300シリーズでは記録を管理するための組織運営の在り方を規定しており、トップ・マネジメントが関与し、効率的な記録管理システム(MSR)に関する方針と目的を確立し、この目的を達成するため、組織を管理し制御することを求めており、成功させるためには、次の要件を必要としています。(2.4.1 - 2.4.8)

  • 顧客およびその他のステークホルダーの焦点
  • リーダーシップとアカウンタビリティ
  • 証拠に基づく意思決定
  • 人々の関与
  • プロセスアプローチ
  • 管理に対するシステムアプローチ
  • 継続的改善

プロセスアプローチについては次の節(2.5)でその規模や事業の性質にかかわらず、それぞれの具体的な目標や目標を達成するための適切な作業プロセスを決定し適用すべきであるとし、組織のすべてのプロセスにシステムを意識して適用することを強調しています。

JIS Z 8245-1

文書情報管理ではあまり取り上げられない規定です。これはIECが発行した規格(IEC 82045-1:2001 文書管理-第1部:原則及び方法 Document management - Part 1: Principles and methods)をJIS化したもので、JIS Z 8245-1:2006 技術文書マネジメント―第1部:原則及び方法として発行されています。JISのタイトルは「技術文書マネジメント」となっていますが、元の規格であるIECは「文書管理」となっており、対象とする文書が一般の文書とは違うことを明確にしようとしたものでしょう。

このシリーズの規格にはIEC 82045-2:2001 文書管理-第2部:メタデータ要素及び情報参照モデル Document management - Part 2: Metadata elements and information reference model がありますが、こちらはJIS化されていません。

JIS Z 8245-1の適用範囲は『オブジェクト(設計・エンジニアリング・製作・建設・運転・保守及び廃棄のプロセスの中で扱われる実体)に関連する文書をそのライフサイクルを通じてマネジメントするために必要なメタデータを定義する原則及び方法につて規定する』であり、技術系の文書に限定しているとしています。

この規格は、特定のものを対象とした仕様書、設計図書、取扱説明書などの関連した文書を整理し、管理するためのものであり、たとえばある製品の仕様を変更し、これに合わせて一部部品の設計を修正し。取扱説明書などの改定などで作成される文書を管理するためのものであり、一つの塊として管理士ながら、その一部を修正した場合のバージョン管理などの方法が規定されています。

ISO19475シリーズ

ISO19475シリーズは、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が中心となって規格化を進めているもので、2018年内にでも発行されるものと思われます。

ISO19475シリーズは、3つのパートからなり、それぞれ「キャプチャ」、「ストレージ」、「処分」からなり、ビジネスを通して獲得した文書を適切に保管し、適切な処分する過程を明らかにし、「コンプライアンスの維持」や「ビジネス情報の活用による組織の活性化」を実現することを目指しています。
なおここでのキャプチャとは、単にスキャナによる紙文書の電子化だけでなく、紙や電子的方法による情報の作成・取得から、情報活用ができるように、情報を電子データとして取り出すことまで含められています。

この規格の詳細の解説は正式に発行された後、JIIMAの機関紙である「月刊IM」に掲載されるものと思われますが、簡単な経緯については「月刊IM」1974年4月号に掲載されていますので、これをご覧ください。

その他の規格

文書情報管理の全体ではなく、個別の工程や手順に関する規格には、以下のようなものがあります。

JIS Z 6016:2015
紙文書及びマイクロフィルム文書の電子化プロセス
JIS Z 6017:2013
電子化文書の長期保存方法
JIS Z 6018:2015
文書管理アプリケーション―電子データのアーカイビング―コンピュータアウトプットマイクロフォーム(COM)/コンピュータアウトプットレーザディスク(COLD)